スタッフエッセイ 2003年11月

恋するメロンパン

渡邉佳代

 この10日ほど、私が恋焦がれてやまないものがある。それはメロンパンだ。近くにメロンパン専門店ができてから、私の食生活はメロンパンそのものだ。FLCのHPマニアである私の母がこの事実を知ったら、きっと血相を変えて電話をかけてくることだろう。
 もちろん、FLCでの昼食もメロンパンを持参するので、別にメロンパン屋の回し者ではないが、むやみやたらにスタッフに宣伝しまくっている。どうやらチェーン店らしく、スタッフの何人かもそのメロンパン屋を見たことがあると言う。ワゴン車の中でメロンパンを焼き、焼き立てのメロンパンだけを露天で売っている店である。店には、いつも長蛇の列ができ、中には10個も買いだめする人も少なくないのだが、ワゴン車の中から次々と焼き立てのメロンパンが店頭に並べられる。表面にはたくさんのザラメの砂糖がまぶしてあるのでカリッとし、中はふっくらしっとりと噛めば噛むほどパンそのものの香ばしさが味わえる。私の中で、パン革命を起こした一品である。
 しかしながら、私のパン歴は決して明るいものではない。このメロンパンに出会うまでは、断然白飯派だった。そして何よりも、私のパン歴に暗雲立ち込める記憶を刷り込んだ暗い過去があるのだ!
 幼い頃、パンを食べるのは日曜の昼と決まっていた我が家では、日曜の昼近くになるといそいそと母や弟とパン屋に向かい、ヤイヤイ言いながらたくさんのパンを買って帰った。まるでピクニックのように、テーブルいっぱいにパンを並べて食べるという、のどかな日曜の昼下がり。その切なくなるほどの甘い思い出が何ゆえ暗い過去となってしまったのか。それは、決まってその時間帯に父が好んで見ていたNHKの将棋や囲碁の番組のせいである。独特の抑揚で「10秒・・・」「後手○○」など聞きながら、パンをモソモソ食べながら見る将棋や囲碁。何かしらの緊張感だけはしっかりと伝わってくるが、無論、当時の私は将棋や囲碁のルールを知らないので「参りました」となっても意味が分からない。何とも歯切れが悪く、けだるく過ぎ行く時間を幼い私はパンと共に噛み締めた。そして、その緊張感だけを幼心に必死で追っているうちに、知らず知らずに食べ過ぎている。パンは腹持ちが悪いくせに胸焼けを起こす。踏んだり蹴ったりのパンの記憶だ。
 暗い過去と大きく出たが、まぁ、何とも情けなく自業自得の微々たる思い出だ。しかしながら、それ以降パンを食すると、パブロフの犬のように無条件で「10秒・・・」という憂鬱な声と共に、訳の分からない歯切れの悪さ、胸焼けを起こしたけだるい日曜の昼下がりを思い出した。その条件反射は強烈で、パンだらけのアンパンマンを見ても胸焼けを起こすくらいだった。
 この暗い歴史(?)を塗り替えたメロンパンを私は賞賛してやまない。先週に体調を崩し、今までになく回復が遅かったのは、明らかにここ数日の食生活のせいであり、自重していたのだが、性懲りもせず、今日も私はメロンパンを買い求める。体を壊してまで、メロンパン大使を勤める私も殊勲章ものだ。私のパン歴を変えた一品。是非、お試しあれ。

(2003年11月)