スタッフエッセイ 2003年9月

お高くとまった彼女

渡邉佳代

 私の実家には、お高くとまった彼女がいる。名前を華(はな)という。
 華はおすましが得意な、今年で9歳になるシベリアンハスキーだ。少し前に『動物のお医者さん(原作:佐々木倫子)』がドラマ化されたが、あの般若のような顔で愛くるしく甘える「チョビ」が、シベリアンハスキーだ。原作の漫画が流行った頃に、ちょっとした「ハスキーブーム」が起こったが、我が家ももれなくそのブームに乗ってしまったのである。

 実は華の前に、桃(もも)というハスキー犬を飼っていた。ミヒャエル・エンデの「モモ」から私が名づけた。残念ながら、幼くして死んでしまったのだが、この子は桃の名の通り、周りの人に幸せをもたらすような、誰からも愛される子だった。桃が死に、ペットショップの厚意で新しいハスキー犬を頂くことになった。「この中から選んで」と店員から差し出された箱の中には何匹かの子犬がいたが、そこには不思議な犬がいた。他の子犬たちは、我先にと、覗き込んだ私に甘えようと寄ってきては愛らしい鳴き声をあげるのだが、その犬だけは、箱の隅で背を向けて騒ぎに加わらず、素知らぬ顔をしているのである。思わずその犬を抱き上げると、なんと言うことか、控えめながらも「ウ〜」と唸るではないか。何故か私はこの犬を気に入ってしまい、この気高い(?)彼女を華と名づけた。

 予想通り、と言うか、必然的に家族から華は不評だった。人間が無理に寄ると唸る。噛みつく。顔もさながら、眉間にしわを寄せ、牙をむく様は狼のようだった。飼い犬に威嚇されてビクつく人間ほど情けないものはない。「愛情をたっぷり注いだら、いつかは分かってなついてくれるだろう」という家族の希望的観測も空しく、華はそのまま成犬になってしまった。息子犬の宗(むね、と読む。華は2度出産したのだが、宗だけが我が家に残った)なんかは、人が近づくと喜んでうれションしてしまうのに。相変わらず華はオヤツの煮干でも気に入らないと、鼻の先でペッとはじき、おすまし顔を決めてしまうヤンチャ娘だ。はじかれたものをその後、宗が喜んで食べるわけだが。

 私が高校生の時、華は家出騒動を起こしたが、それをきっかけに私と彼女は友情を深めてきたように思う(吹雪の中、裸足で延々と彼女を追いかけた若き私)。今では私に「体をなでろ」と言わんばかりに大きな背中を押し付けてくる彼女だが、何故かそれに鬼気迫るものを感じるのは、彼女が般若顔だからだろうか?

 尖ったナイフのようだった華(若い頃の彼女が言葉をしゃべれたら、自分のことをきっと「アタイ」と呼んだことだろう)も今やすっかり丸くなり、老いが目立つ。糖尿病の気もある、散歩に行かない日もある、餌を食べない日が増える・・・と心配しているが、宗とガウガウ唸りながらK1まがいのじゃれ合いをしている時が、今は1番生き生きしているかな(垣根から通行人が恐れおののきながらその様子を見ているが)。宗といつまでも仲良く長生きしてね、はーちゃん。

 ・・・実は、実家にはもう一匹、お高くとまった彼女がいる。名前をミルクと言う。今年で6歳になる雑種の猫だ。これは、また別のお話。。。

(2003年9月)