スタッフエッセイ 2003年9月

トラウマ・キルト・プロジェクトの夢

村本邦子

 イギリス視察に先立って、アイルランド、スコットランドの友人を訪ねた。どちらも博士課程をしていた時の同級生でアメリカ人。ジニーは、現在、「フォト・セラピー」をやっていて、アイルランドの大学の先生と共同研究中、この8月から1年間、アイルランドに滞在している。「フォト・セラピー」とは、彼女が創ったグループ・セラピーの一種で、ジーナ・ケリーという女性写真家の写真(全部白黒で、少女と大人の女性のミステリアスな写真ばかり)を元にストーリー・テリングをするというものだ。一種の投影法でTATに似ているが、検査ではないので特別な分析をせず、アート、夢、箱庭のように、ストーリー・テリングをすること自体が治療的に働くという。ジニーは、もともと、ヒーリング・セレモニーをやっており、トーク・セラピーよりも、イメジネーションを使ったセラピーを好む。
 ダブリンでジニーと落ち合い、アバディーンのダンを訪ねる。ダンはインターナショナル・スクールの校長先生。ダンのパートナーであるキャロがパッチワークに凝っていて、自宅には素晴らしいキルトの数々があった。キルトとは、まさに芸術だということを思い知った。私自身、針仕事や編み物が好きで、かつてから興味あったが、いつも時間がないので小さなものしか作ったことがない。ところが、今回ばかりはすっかりキルティングの虜になってしまった。キャロの持っているキルトの本を見ているうちに、印象的なキルトの写真に眼がとまった。タイトルは「ブルー」。アメリカのキルト作家の作品で、解説を読むと、彼女は自分の夢からイマジネーションを得てキルト作品を作っていたが、あるトラウマティックな体験を機に、まったく夢を見れなくなってしまったのだという。再び夢が戻ってくることを祈って、この作品を作ったところ、本当に夢が戻ってきたのだそうだ。なるほど、そんなこともあるかもしれない。キルティングが心の傷を癒すことは容易に想像できる。チクチクと針仕事をすることは、瞑想的な意味を持っているし、さまざまな色や模様の布を組み合わせて表現すること自体が治療的に働くことだろう。トラウマの記憶は断片化し、それぞれの断片は、ひとつのものに統合されることを求めている。最後に大きな作品が出来上がることは、達成感や満足とつながるだろう。これを、トラウマを受けた女性たちの共同プロジェクトにしたらどうだろう。それぞれのキルトのピースをつなげてひとつの作品が出来ることは、女性同士のつながりや連帯を象徴するに違いない。
 話をしているうちに、ジニーも私も、このアイディアにすっかり夢中になってしまった。国境を越え、言葉の壁や文化の違いを越え、トラウマを受けた女性たちで大きな作品を作ったらどんなに素晴らしいことだろう!エイズのキルト・プロジェクトのように、作品自体が訴える力を持つことだろう。ジニーとは、このプロジェクトを近いうちに是非成功させようと誓い合って別れた。このプロジェクトに興味ある人、誰かいないかな?

(2003年9月)