スタッフエッセイ 2003年9月

キャンディ、「ほー♪」の誘惑

小林まり子

 この夏、オカリナを習った。となりのトトロが木の上で「ほー♪」と吹く土笛である。
きっかけは通勤途中のターミナル駅で受け取った透明の袋。中に四つ折のチラシ、隅にキャンディ。それを取ろうとチラシを取り出し目についたのだ、「サマーセミナー」の文字が。ウクレレ、和太鼓、ドラム‥と様々な楽器、2回の特別レッスンを職場帰りに受けられる設定だ。料金も格安。これまでほとんど音楽に縁のなかった私が、その中から選んだ楽器がオカリナ。演奏している姿を想像して、自分に一番しっくりくると思った。
 勢い込んで申し込んだものの、セミナーまでの半月あまり。帰宅したら10時を過ぎるなんて、主婦・母親が出歩く時間じゃないぞ、週末金曜日は疲れているよなぁ、サマーセミナーが終わったら、高額のレッスンを勧められて困るんじゃないか‥など、湧き上がってくる否定的な思いに困りもした。結局教室に問い合わせ、グループレッスンの最低開催人数4人をぎりぎり確保していると聞いて、参加を決めた。
 ターミナル駅から徒歩2〜3分のかっこいいビル。その3階受付、エレベーターのドアが開いて、まず後悔。おしゃれなのだ。内装、照明、集っている人も、何もかも。仕事帰りの若い人たちが楽器を片手に歓談している(おばさんの来るところじゃない、かも)。
 防音の施された小部屋に入って、先生とご挨拶。素敵な方で、ひと安心。でも一緒に習う人たちの参加理由を聞いて、今度は赤面。「友人の結婚式で演奏したくて」「近くに勤めていて、以前からオカリナのクラスを希望していました」(キャンディにつられた、私)。
 先生にうながされ吹いてみた。「ほ〜♪」。初めてでも、あったかい音の出るありがたい楽器だ。ほっとしたのもつかの間、頭の指示通りに指が動いてくれない。「小林さん、指先を見ないで。目が寄ってますよぉ」と優しく注意され、「そうそう、よくなりました」とほめてもらって、ドレミ‥と吹けるようになった。
 40分後には「かえるの合唱」に挑戦。パーカッションに合わせて、4人で輪奏したら、結構、イ・ケ・テ・ルやない!? 最後に、サマーセミナーの課題曲「いつも何度でも」(映画『千と千尋の神隠し』テーマ曲)を先生が演奏してくださった。この時点で、私、ノックダウン。あんなふうに吹いてみたい!と思ってしまって、初日を終えた。
 サマーセミナー2回を終え、一緒に習った人たちと9月から正式なクラスを始めてもらうことにした。月に2回、職場帰りにオカリナを習う。年に一度は発表会があるんだって、とはしゃいでいる。化粧っけのない私が、演奏時、目に付く指先の手入れを始めた。
 日々、思春期真っ只中の子どもたちが繰り出す問題の数々と格闘している私。悩み没するだけでない時間がつくれそう‥ちょこっと「ほ〜♪」としている。

(2003年9月)