スタッフエッセイ 2003年6月

時代錯誤のぜいたく

小林まり子

「湯葉は、ぐつぐつ炊いたらあかん。この湯葉がんもも、おつゆといっしょに電子レンジでチンするくらいがええで」。豆腐屋のおっちゃんの言葉に生唾ごっくん。でも今日は生湯葉と厚揚げ、あげ出し豆腐まで買ってしまったから、がまんする。

 FLCで働き始めて2ヶ月半。仕事と一緒に楽しんでいるのが、アフターファイブだ。ビルを出てすぐ、天神橋筋商店街の人込みにまぎれこむ。JR天満駅を通り過ぎ、ずんずん歩いて地下鉄・扇町駅、南森町、商店街を抜けたら大川、天神橋を渡りきって左折、京阪・天満橋まで。約30分、ほぼ毎日歩いている。
 商店街が面白くってたまらない。各店が知恵をしぼった看板や飾り付けを、通りすがりに観察。価格をさりげなく比較、センスもチェックする。しょっちゅう買うものではない洋服や食器、小物などは、誰かにプレゼントする日を想像しながら歩く、歩く。行列のできるコロッケやさん、私も並んで食べてみた。「GLAYのジローも食べてる、モッチーニ」も確かにおいしい。“癒し”や“リラクセーション”などのキャッチコピーが誘うマッサージ店。やたら多いので、数えてみた。結果、十数軒。あらま、この辺の人は疲れているのねと思って見ると、勤め帰りの老若男女とたくさんすれ違っている。やっぱり‥。
 夕飯の食材を買い求めることもある。京野菜のお店。つやつやのきゅうり、トマト。ぬれた新聞にくるまれた菜っ葉は、生産者名を誇らしげに背負ってる。蕗、筍などの季節の野菜、ほんの一日だけ、つくしも並んだ。甘くってやわらかい生湯葉は、水槽のある昔ながらのお豆腐屋さんで買う。京野菜のお店で、お豆腐屋さんで、店の人とちょこっとおしゃべり。おなかがグウと鳴って、家路に着く。

 日本一長い商店街、有名だからガイドブックにもたくさん出ているらしい。でも、私は見たことがない。プロが集めた情報はきっと素晴らしいのだろう。でも私は、自らの気づきを大切にしたい。店構えや商品を見て、食べて。お店の人とおしゃべりして、驚きたい。少しずつ、発見したい。そしてオリジナルの商店街地図を、私の中に生き生きと描きあげていく。情報が氾濫する今だからこそ、「時代錯誤のぜいたく」と私は呼んでいる。

(2003年6月)